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人魚姫は"光"に強く焦がれていました。
暗くて深い水の底は冷たくて、初めて触れた光はひどく暖かくて、どうしようもなく惹かれたのです。
"近づきたい。もっと、あの光へ"
その想いは日々積もる一方。
しかし、彼女はそうなればそうなる程に、もっと下へ潜っていってしまいます。
「どうして上に行かないの?」
ある日魚が尋ねました。
「何故だか、とても怖いの。」
「何を怖れているんだい?」
人魚姫は言いました。
「わからない。でも、もしかしたら、私は案外今の自分を気に入っているのかもしれない。それとも、そう、光は眩しいから、目を瞑ってしまうから、本当の姿がわからないの」
"だから怖い"そう続けた彼女の複雑な想いは魚には理解できませんでした。
「それこそ僕にはわからないなぁ」
「でもね。もがけどもがけど、私にはとても辿り着けない。結局この想いはすべて、泡沫に消えてしまうのよ」
人魚姫は控えめに伸ばした手を諦めたように下ろし、悲しそうに笑顔を咲かせたのです。
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