『橘遥斗ファンクラブ』

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それって、みんなで遥斗君と距離を置きましょうってこと? 今日のテニスの試合みたいに。 あんなに大勢の人がいたのに、誰も彼に声なんて掛けなかったし、手も振らなかった。 必要以上に遠巻きにして、まるで美術品を鑑賞するみたいに眺めて。 みんなでああしましょうって? そんなの………! いきなり別れを切り出される遥斗君の気持ちは? 昨日まで近くに居たはずの人に、突然避けられるみたいに遠巻きにされる彼の気持ちはどうでもいいの? 寂しいよ。 きっとすごく寂しい。 別れを告げられるのは、誰にとっても辛いはずでしょ!? それをよくも、こんな平気でコソコソと───! 「……っゴホッ!!」 突然頭から水を被って咳き込んだ。 本当に容赦ない人達だ。 「どう?別れる気になった?」 「…………」 「答えろよ!!」 ずぶ濡れになった髪を力任せに掴まれる。 たぶんコレ、ピンチどころじゃなく、大ピンチだ。 携帯ないし、どっかに攫われてるし。 助けが来る予定なんてない。 わたしって真剣にバカなのかも……。 最悪に要領悪いな。 でも、嘘でも言いたくないよ。 後で訂正出来ても、一時だとしても、 そんなことあの人に聞かせたくない。 「……っ、別れない……!」
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