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「ふーー」 多少すっきりした。 テレビのリモコンに手を伸ばす。 「……」 が、その体勢のまま、一時停止した。 隣の部屋、803号室から聞こえる、よく耳に残っている音。 微かに、でも確実に、私の聴覚と、脳内記憶中枢の海馬を刺激する。 あれは……。 ……ベッドのスプリングの軋む音。 聞こえないふりをして、急いでテレビの電源を入れた。 バラエティー番組。 お笑い芸人が、テレビの前の視聴者の心とはまるで無関係にバカ笑いしている。 「……」 ……嫌だ。 不潔だ。 ――気持ち悪いっ。 既にテレビの音で掻き消されているにもかかわらず、私は無意識に耳を塞いでいた。
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