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――あ。 ドアを開けた状態で固まる。 ちょうど、去っていく圭太とすれ違いにこちらへ向かってくるスーツの男が見えたからだ。 ドクン、と心臓の音が、確かに聞こえた気がした。 急に今の現実から非現実に、いや、今の非現実から現実に引き戻されたような眩暈。 ……時峰。 時峰が今しがたすれ違ったばかりの男を品定めするように振り返り、また顔を戻した。 その時の顔。 『センセの彼氏、見~ちゃった』 とでもいうような、ニヤニヤした、したり顔。 こちらへ向かってくる。 ドクン、ドクンと尚も、いや一層強く、心臓の鼓動が耳の奥に響く。 私はドアも口も半開きにしたまま、蛇に睨まれたカエル状態。
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