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「ユキっ」
目の前で時峰が今まで聞いたことがないような大きな声を出す。
ドアップでのどぼとけが目に入るとすぐ次の瞬間に目に映ったのは自分の部屋の中の玄関だった。
そしてゆっくり閉まろうとする扉の無機質な色。
あ、れ……?
時峰……?
もう、目の前に時峰はいなかった。
ゆっくりエレベーターの方へ顔を向ける。
時峰が手を伸ばして彼女の腕を握る場面が見えた。
泣き出す女。
抱き締める男。
なんて言っているのか分からない。
聞こえない。
聞こえない……。
聞きたくない。
なんて色味の無い光景。
興味の無い映画のクライマックスシーンのようだ。
大ごとなのは分かるけれど、何も、……何も、響いてこない。
分からない。
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