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ドッ、ドッ、ドッ、と心音が大きく、早くなる。 まるで全身が心臓になって、鼓動の度に膨張していっているみたいだ。 頭の中でサイレンのようなけたたましい音が鳴り響く。 耳鳴りにも似て、私は一瞬立っている地面がブヨブヨに固さを失ったような気がした。 ――あ……。 完全に足が止まる。 地面から木の幹が出て来て、足と同化したみたいだ。 進んでいるつもりが、私の足は進むことを拒否し、1歩も動かなくなった。 横にいる水野さんは私の顔を覗き込み、 「綾川先生? 知らない人? もしかして」 と小声で聞いてきた。 「……」 答えようと思った。 思ったけれど声が出ない。
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