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「……」
言葉が……、出ない。
あ、はは、と愛想笑いをする水野さん。
「綾川先生、どうし
「ごめん、わざわざ連れて来てもらって悪いんだけど、2人にしてくれるかな?」
1年近くぶりの時峰の声。
少し低めで、少しハスキーで、少し掠れた、切なくさせる声。
一気に全身の細胞が騒ぐ。
記憶を、思い出を掘り起こそうと全身が活動を始める。
「あ、……はい。
わかりました。
それじゃ……」
「ありがとね」
時峰が優しい声をかける。
水野さんはコートを握ったままの私の手を優しくほどき、お先です、と言ってそそくさと車へ走って行った。
水野さんが車のエンジンをかけ、敷地内から出て行くまで、お互い無言で向き合ったまま。
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