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私は笑いを堪えながら、スポンジを躍らせる。 カチャカチャ、カチャカチャ。 しばらくの沈黙の間、皿を洗う音が響く。 あの得意気で常に上から目線の男がどんな顔をしているのか、ちょっと気になる。 「ねぇ、センセ。 テーブルの上のビタミンB、あと2錠しか入ってないよ」 説得を諦めたのか、話題を変える時峰。 「うん。 いいよ。 もう、いらないから」 「聞こえてんじゃん、センセ」 返事をした私に即座につっこむ時峰。 振り返ったら、リビングから顔を出す時峰がこちらを睨んでいるのが見えた。 「あー、もう。 腹立った。 もう、センセがお婆ちゃんになっても“泉”って呼んでやらね」 私は、アハハ、と笑ってしまった。 お婆ちゃんになってもそばにいてくれるんだ。 逆に嬉しくて、なんだか涙が出そうになった。 そうだ。 来月は時峰の誕生日がくる。 あの白いワンピース。 クリーニングに出しとこう。          ― END ―  
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