33

5/27
前へ
/30ページ
次へ
「それじゃ」 時峰が手を離し、水野さんにそう言う。 水野さんは、なかなか喋ろうとも動こうともしない私を不思議そうな顔で見る。 「あれ? 綾川先生、車……」 きょろきょろと駐車場を見渡す水野さん。 「この人はこっち」 カチャリと自分の車の助手席のドアを開ける時峰。 私の手を取って、少し高めのシートへ導いた。 ちょっと、時峰。 そんな、水野さんの前で……。 「あ……。 それじゃ……」 私は罪悪感を感じながら、苦い笑顔で手をパーにして少しだけ上げた。 バタンと閉めて、時峰も運転席へ乗り込む。 エンジンをかけ、ポカンと立ち尽くしている水野さんの横を通り、予備校を後にした。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4714人が本棚に入れています
本棚に追加