ジレンマ

29/39
前へ
/39ページ
次へ
「じゃ、岸本さんお疲れ」 そう言って澪に背中を向けようとした時。 「隼人…待って」 俺の腕を掴んで見上げる澪の瞳が、やけに寂しそうに揺れていた。 「…言ったろ…?俺はもう澪とはやり直せねーよ」 「…そんなの分かってるよ…」 「じゃその手離せよ」 「もう隼人とやり直したいなんて思ってないけど…少しだけ胸貸して…」 ポロポロと涙を零し始めた澪が、俺の胸におでこをつけて顔を伏せる。 別にもう澪に未練はないけど…黙って泣いてる彼女を振り払う事なんて俺には出来なかった。 「澪…お前…BLUE STYLEで何かあったのか?」 「…隼人は…何も言わなくてもやっぱり私の事…分かってくれるんだね」 「何があった?」 そう…澪って女は昔からこうだった。 仕事で嫌な事があっても、自分の限界まで俺に頼らない。 だけど、自分の中で限界を感じた時だけ、俺の胸の中で黙って涙を流して… それでケジメをつけて、またいつもの頑張り屋の澪に戻って行く。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

583人が本棚に入れています
本棚に追加