ジレンマ

30/39
前へ
/39ページ
次へ
「澪…?」 小さく震わせて泣いてる澪の肩にそっと手を回して叩いてやる。 「吐けよ。それで楽になるんだろ?」 そう澪に声をかけた時だった。 「…部長…?」 暗闇の中から聞こえた声に目をこらしてその姿を探した。 薄っすらと俺の目に映ったのは、バッグを胸に抱えて立ち尽くす… ───倉田の姿だった。 「倉田…?」 俺の言葉に慌てて顔をあげた澪と、倉田の視線が交わった。 「岸本…さん…?」 何で?とでも言いたそうだった倉田の表情がみるみる歪んで行く。 「あっ…倉田部長…これは…違うのっ」 慌てて澪が俺の胸から離れて手を横に振りながら否定する。 けれど倉田は顔を引きつらせながら、必死に声を絞り出す。 「あ…あの…ご…ごめんね…邪魔…しちゃった…アハハ…」 そう言いながらも歪んで行く倉田の表情。 全てを言い終えたと同時に、背中を向けると逃げるように走って行く。 「倉田!」 思わず叫んだ俺の声にも振り向かず、体を揺らして走って行く倉田の姿に全てを拒絶された気がした。 …あー…終わったわ。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

583人が本棚に入れています
本棚に追加