幻影の華君

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海辺にある、 小さな小さな 白い家。 そこに僕と彼女はいる。 それが僕らのお城。 静かな空の遥か向こうを いつも君は眺めている。 揺れる水面に映る月を 乱して掻き消してはいけないと 君はいつも静かに海に佇む。 黒い波に飲み込まれてしまいそうで, 僕は今すぐ引き寄せたいのに, 月がいつも僕を遠ざける。 いや,拒絶をしているのは彼女の方? そんなに月が恋しいのか。 そんなに海が恋しいのか。 お願いだ,彼女を連れて行かないでくれ。 僕の元に戻って来て…。 願っても君は僕の手を擦り抜け 波の音しか聞こえない, 暗夜の海へと行ってしまう。 そして,君もまた 静かに泣くから, 僕には波の音しか届かない。 ただ,皮肉にもそんな光景が, 君をとても綺麗に見せてくれるんだ。 君が月を見て泣くから, 僕は月に嫉妬をする。 ねぇ,何故泣いているの? 何が悲しいの? 何が苦しいの? 僕には教えてくれないのに, 月には問いかけるんだね。 僕は君の笑った顔が好きなんだ。 ねぇ,泣き止んで笑ってよ。 僕は無力だ。 君を泣き止ませて, 笑顔を与える事も出来ない。 振り向かせて, 抱き寄せる事も出来ない。 月が憎い。 海が憎い。 そんなに彼女に愛されているなら, 彼女を救える知恵の実を 僕に与えておくれ。 月は平等に頭上で見守っているのだろ? 僕の為に, 彼女の為に応えてよ。
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