プロローグ

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 彼は、長い月日を哀しみを抱えて、あてもなく体を酷使して傷付けるように追いつめていた  誰かを探し求めるように旅に出て無謀なまでに危険な場所へ赴いては目的を果たしても虚無感に悩まされていた  いつしか数え切れない程の旅を経て、灰色の記憶を得て求めるものは砂のように手から零れ落ちてゆくばかりだった  荒れ果てた日常の中で、生きることが辛く苦しくて大切なものに気付かずに傷付けては失ってゆくばかりだった  思うようにならない日々が苛立ちを募らせて、狂おしい時間ばかりが過ぎゆく  孤独でいることで心を守るようにして、人の輪から離れ心から笑うことがなくなっていた  無謀なまでに酷使した末に身体を壊して、入院生活を余儀なくした時に否応なく自分と向き合ってゆく  ただ時間だけが過ぎてゆく長い長い苦痛の時間の始まりだった  無駄に考える時間が多く考えたくないことまで考えてしまう  耐え難い衝動の中で彼は長い夢を見る…  記憶の螺旋を廻るように守っているものを大切に抱えて深く深く奥底へ沈んでゆく  今、彼の回帰する想いと夢と一緒に、ゆっくり紐解こう  小さな町での小さな命の物語を…
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