すべてのはじまり

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何度も書き直された曲の紹介が 書いてある台本を読む私の隣りで、 広い背中は興奮を隠せていなかった。 まるで絵にかいたように目がキラキラしていた。 まだか まだか 無邪気で子供っぽいところは いくらか背中が広くなっても 変わらないようだ。 今日は吹奏楽部の春の定期演奏会。 私は演奏と掛け持ちで 司会のような役割をしていた。 「坂下いるー?坂下侑子!」 「何よ、ここにいるけど。」 「あ、ごめん。これさ、次の台本の訂正ね! よろしく!」 「もう、今更?…別にいいけどさ。 それよりも恒、次の暗転の間にさっさと 準備しちゃってよね。 準備できたら私に合図だからね。 忘れないでよね!」 「わかってるよ、お前の方こそ 人のことにばかり気を回してると 次の台本かむぞ。 せっかく入れた気合いも台無しになるんだから しっかりやってくれよ。」 「うるさいなー。」 「お、おわったな。いってきます!」 「はいはい。」 私たちは約束の通り、吹奏楽部の一員になった。 あの約束の日から五年、 中学二年生になっていた。 同学年で吹奏楽部に入った人数は すごく少なかった。 そのおかげか、先輩や後輩に羨まれるほど 仲が良かった。 いつも一緒にお昼ご飯を食べ、少しでも時間があれば 集まって他愛のない話をするような毎日だった。 私にとって恒優はその中でも 少し特別な存在だった。 五年前に誘ってくれなかったら 私はきっとこの輪の中にはいなかった。
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