すべてのはじまり

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甘くて、優しくて あたたかくて、安らぐ。 ものすごく心地のいい音。 私は次の台本の準備もせずに聞きこんでいた。 …♪ 最後の音が、甘い余韻を残して消えた。 「…恒優君、すごいね。」 恒優の彼女がぽつりと呟いた。 「私も驚きました。すごいですね。」 「ねっ!あんなに吹けるようになっていたのね…。」 「恒は楽器を誰よりも愛していますから。 それにしてもハナミズキって力強い歌詞ですよね。 君と好きな人が100年つづきますように…なんて 友達ならまだしも片思いの相手には 私、思えないです。」 「あー、確かに…。 ちょっとー!坂下ちゃんやめてよー! 悲しい歌に聞こえてきたじゃないの!」 「えっ?これって幸せな歌なんですか? 私には最初から悲しい歌にしか 聞こえませんでしたけど…。」 「どうなんだろう…。 あっ!坂下ちゃん、台本!台本! 恒優君お疲れ様ー、よかったよー!」 演奏し終わって彼女の待つ舞台そでに戻ってきた 恒優の顔は幸せそうだった。 そうだ、こんな幸せ真っ只中な奴が 悲しい歌なんて演奏しないか…。 私はこの日、帰ってからもずっと 自分の演奏ではなく恒優のハナミズキが 頭から離れなかった。
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