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一同は場所を変えた。
トンネルと呼ばれるその場所は、
風通しもよくて
春のにおいがたくさん吹き込んでくる場所だった。
おかしい。
恒優がおかしい。
私は、恒優の目の前でしゃがんで
顔を覗き込んだ。
そこには、今まで
見たことのないくらい
辛そうな顔をした恒優がいた。
そして、一度も目を合わせないまま
小さく口を開いた。
「…なに?」
「どうしたの?なんか元気ないよ?」
「なにもないから。
…俺かえるわ」
「え、ちょっと…」
それだけ言うと恒優は
私の言葉を待たずに立ち上がり、
歩き出して行ってしまった。
一人残された私は、
そんな背中をただ茫然と見つめていた。
気付いたのか、恒優が一度だけ振り返った。
眼鏡から覗く目は真っ直ぐこっちを見ていた。
視線で私は溶けてしまいそうだった。
何か、何か言わなくちゃ。
「また…連絡して。」
「…うん!するから、絶対するから!」
「じゃあ。」
「ばいばい!」
背中を見送った後、
少し景色が愛おしく見えた気がした。
春の風も、新しい若葉の緑も、
先輩たちの声も
全部全部キラキラだった。
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