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その日、河原進太は、ほろ酔いで深夜の街を歩いた。
空港警備の仕事を終えてから仲間と居酒屋で飲んだのだ。
いつしか眠り込んで、眼を覚ました時には仲間は居なかった。
いつもなら、そのまま自宅へ戻るのだが、その日は、すぐに帰りたくない理由があった。
カラカランッ
【BAR みちしるべ】のドアを押して入ると、カウンターの左端に中年が二人。右端にポニーテールの女性客が一人で飲んでいた。
進太は、空いている五つの席の真ん中に腰を降ろした。
「いらっしゃい」
マスターが、にこやかな表情で迎えた。
「こんばんは」
進太は煙草を取り出してカウンターに置いた。
「ふんっ! 実力もねえのに偉そうに……金儲けが上手いだけの、あんなあきんどに言われたかねえよ!」
「いや、まあまあ。ヤツにも事情があるんだろうよ」
大声で話す中年組の会話が、いやでも進太の耳に入る。
進太は煙草を1本抜き出して火を点けた。
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