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椿は本当に綺麗だった。
放課後の教室で椿がボンヤリと外を眺めてる姿に何度うっとりしただろう。
音楽室で誰かが弾いていたピアノに耳を傾けた椿が珍しくこんな事を聞いた事があった。
「ねえ? あの曲なんて曲?」
私は音楽室まで、デブで機敏さのかけらもない身体を揺すりながら、息を切らして走って汗だくでピアノを弾いていたやつを捕まえて聞いたんだ。それで椿に教えてあげた。
「ジョージ・ウィンストンのロンギング・ラブだって」
ーーあこがれ・愛ーー
まるで私の椿に対する気持ちみたいだった。
けど、タイトルを聞いた瞬間椿はあの綺麗なアーチを描いている眉をギュッとさせた。
椿が最強に不愉快な時の仕草だった。
あの時は分からなかった。椿がどんな気持ちだったかなんて。私は中西を追い払う事に成功して安心しきっていたから。
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