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家政婦の君絵によると、朋美は昨日からお邸に帰っていなかった。「無断外泊はよくあることなので」と言う君絵に別段心配している様子はなかった。晶子はもう一度透明人間に変身して、夕方に一樹のマンションを訪ねることにした。
晶子は再び、母親の和子の買い物帰りを狙ってマンションに潜入した。食事時に和子の置いていったトレイを一樹が取ろうとドアを開けたとき、瞬時に姿を現した晶子が待っていた。
「あなたは、晶子さん!」
「一樹さん。わたし、あなたに聞きたいことがあるの」
「ぼ、僕には、別に話すことはないよ」
そう言って、一樹が慌ててドアを閉めようとしたとき、晶子はそれよりも速く一樹の足元を潜り抜けて部屋の中に入った。一樹には一瞬目の前から晶子の姿が消えたように見えた。一樹はその俊敏な晶子の動きに目を見張ったが、同時に諦めの表情を浮かべながら机の椅子に後ろ向きに座った。晶子はカーペットの上の低テーブルについて一樹の涼しげな眼を直視した。
「晶子さん、聞きたいことって何ですか?」
「化学同好会の秘密を知りたいの?」
「えっ。どうしてそれを?」
「わたしの親友の朋美が化学同好会のメンバーになったの。そしたら行方不明になったわ。わたしは、朋美を助けたいの。だから、何でも良いから化学同好会のことを教えて!」
一樹の眼の色が変わった。
「あいつら、関係ない人まで巻き込んでいるのか」
「化学同好会の柳井真吾が言う『計画』って何のことなの?あなたはそれが厭で登校拒否をしてるんでしょ?」
一樹は観念したかのような表情で『計画』について語り始めた。彼の話によると、中学校から知っていた直人に勧められて三ヶ月ほど前に真吾と会った。真吾の化学に関する知識の深さに驚くと共に、彼の目指す高校レベル以上の化学実験にとてつもない魅力を感じた。それで、真吾の主宰する化学同好会のメンバーとなった。
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