第5話 ストーカー

13/26
前へ
/26ページ
次へ
 真吾が冷酷な笑みを浮かべながら、朋美に言った。そのとき、実験小屋の扉が開いた。そして、一樹が入ってきた。 「お前、一樹じゃないか。心を入れ替えたのか?」  冷ややかな表情で真吾が言った。 「リーダー、もうこんなことやめましょう。関係ない人の命まで奪って何になるんですか」  そう言って、一樹は柱に括り付けられている朋美をチラリと見た。 「お前、恐いんだろう。科学という真理の探求には実験動物のような犠牲が付き物だ。俺たちは、自分たちの力を証明しようとしているんだ。お前も爆弾製造には非常な興味を示していたじゃないか」 「だからと言って、人としての道を踏み外して良いということにはならないでしょう」 「もう良い。これ以上の問答は無用だ。おい、健太と直人、一樹を捕らえてこの女と一緒に俺たちの実験に付き合ってもらえ」  信吾の命令を受けて、健太と直人は一樹に襲いかかった。  三人がもみ合う中、透明人間に変身している晶子が朋美に「逃げるのよ」と耳元で囁きながら彼女の紐を解いた。自由になった朋美は一目散に扉に向って走り、外に飛び出した。それを見て慌てた真吾が朋美を追った。外に出ようとした矢先に何かにけつまずいて信吾が転倒した。透明人間の晶子が足を掛けたのだった。 「それまでだ!」  四つん這いになって見上げた真吾に、暗闇の中から南雲刑事の声が飛んだ。同時に警官が数人現われて真吾を取り押さえた。そして、さらに南雲たちは実験小屋に突入した。小屋の外に走り出た朋美が振り返ると愛らしい晶子の姿が眼前に現れ、ふたりは抱き合った。  しばらくして、真吾を先頭に、健太と直人、一樹の四人が南雲らに連行されて小屋から出てきた。そして、晶子たちは皆、河原に止めてあったパトカーや黒塗りの車に分乗して所轄の東町警察署に向った。真吾ら三人の首謀者は爆発物製造と殺人予備の容疑で現行犯逮捕され、取り調べを受けた。晶子も一樹や朋美と一緒に参考人として警察の事情聴取を受けたが、すぐに解放された。  翌朝、登校した晶子は下駄箱にまた手紙を見つけた。差出人に一樹の名があった。 「また、ラブレター?」  晶子の肩越しに朋美が覗き込んで笑った。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加