第5話 ストーカー

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            ***  爆弾事件以来、晶子と澤本一樹はより親近感を深めたようだ。いや、少なくとも一樹の晶子への思いはより深まったことは事実だった。だが、晶子は自分が普通の人間でないことを隠していることに強い負い目を感じていた。だから、デートの約束やメールも晶子はどうしても受け身になってしまった。  日曜日の午後、二人は表通りの喫茶店の二階でお茶をしていた。窓側の席で街路樹の新緑が風にそよいでいた。 「最近、元気がないようだけど、大丈夫?」  コーヒーを一口啜ってから、一樹が晶子に尋ねた。 「あっ。大丈夫よ」 「ちっとも、大丈夫そうに見えないんだけど。何か悩み事とかあるんじゃないの?」 「いえ、最近ちょっと体調が悪いだけ…」  そう言って、晶子はコーヒーカップを手に取った。 「そう、この前は晶子さんにいろいろ迷惑をかけたので、何か相談事があったら何でも聞くから、そのときは遠慮しないでメールとかしてよね」 「ありがとう」  晶子はまだ、本当のことは言えないと思いながら、ふと窓の外を見た。街路樹の頭越しに、向かい側の歩道を伊藤直美が歩いているのが見えた。でも、なんだか様子が変だった。 「伊藤先生どうしたのかしら?」 「えっ。英語の伊藤先生?」  一樹も晶子の視線の先を観た。 「そう私のクラスの担任なの。でも何だか、そわそわしながら歩いているわ」 「そうだね。ときどき後ろを振り返ったりしてるね」 「誰かにつけられてるのかしら?」 「ここからじゃあ、よくわからないね」  そう言っている間に、直美は二人の視界から消えた。晶子と一樹はしばらくして喫茶店を出て別れた。まだ夕刻には早かった。晶子は直美が歩み去った方向に行ってみた。  しばらく歩くと、晶子は公園のベンチに直美がぽつんと独り座っているのを見つけた。晶子は近づいて直美に声をかけた。 「先生、こんなところで独りどうしたんですか?」 「あっ。朝倉さんね」 「さっき、街中で先生のこと見かけたから、こちらに来てみたんです。先生はこの辺に住んでらっしゃるんですか?」 「そう。近くよ。寄って行きなさい。お茶でも御馳走するわ」
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