第5話 ストーカー

15/26
前へ
/26ページ
次へ
 直美はリビングから公園を見下ろせるアパートの二階の1LDKに一人住まいしていた。晶子は通されたキッチンのテーブルについて直美が紅茶を入れるのを眺めていた。 「先生のご実家はどちらなんですか?」 「長野よ。私は大学で教員免許を取ったら郷里に戻るつもりだったんだけど。なかなか教員の空きが向こうになくて、こちらでしばらく先生をすることにしたの。それでもう三年経つわ」  直美がマグカップを二つ手に持ってきて一つを晶子の前に置いた。そして晶子に向かい合うようにして椅子に掛けた。 「そうだったんですか。でも、さっき先生は何かを気にされてるような感じでしたけど」  晶子の言葉に、直美はハッと顔色を変えた。 「先生、何か心配事とかあるんですか?」 「朝倉さんにこんなこと言うのも変だけど、わたし最近ストーカーに付きまとわれている気がするの」 「ストーカー?」 「誰って特定できないのだけど。でも、確かに誰かに後をつけられていたり、見張られていたり、そんな感じがするのよ。警察に行くにしてもはっきりした証拠や心当たりがあるわけではないので、何だかとっても不安なのよ」  晶子は帰宅して南雲太郎に直美のストーカーのことを話した。しかし、南雲は直美の言うとおり本人の不安な気持ちだけでは警察としても何もできないと答えた。晶子は何とか直美の力になりたいと思った。    翌日、学校で朋美が晶子に新聞記事の切り抜きを見せた。それは、晶子たちが住む地域を中心に起きている異常な連続殺人事件を報じていた。晶子はふと、直美のストーカーとの関連性を疑った。 「もう三件も続いてるのよ、怖いでしょう。被害者はみな一人暮らしの若い美女ということなの。私なんかそれにお金持ちだし絶対狙われちゃうわ」  椅子に横座りして、朋美がマジ顔で言った。 「大丈夫よ。朋美は君絵さんと棲んでいるから一人じゃないわ。それに、あのお邸は勝手口の出入りさえ気をつけていればあとはセキュリティーも万全だし」 「そうかしらね。確かに、この記事によると被害者はアパートの一人暮らしが共通しているわね。よかった、安心だわ」  そう言って、朋美は新聞記事の切り抜きをカバンに仕舞い込んだ。 「そうでもないわよ」 「何が?いま大丈夫だって言ったじゃない」 「そうじゃなくて、私が心配しているのは伊藤先生なの」
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加