第5話 ストーカー

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「伊藤先生、担任の?」 「昨日、先生のアパートにお邪魔して分かったんだけど、先生はストーカーに付きまとわれてるらしいの。それに、伊藤先生は二十六歳の独身でまだ若いし、美人だわ」 「ストーカーが殺人犯なの?怖いわ」 「まだ分からないけど、可能性はあるわ」 「どうするの、それで?」 「伊藤先生のストーカーを突き止めてみようと思ってるの」 「わかった。わたしも協力するわ」  推理好きの朋美は、口では怖いとか言いながら危ないことも実は好きなのだと晶子は思った。とりあえず今週は朋美が直美の帰宅時に不審人物が後をつけていないか見張ることになった。  晶子は帰宅して南雲に連続殺害事件と伊藤先生のストーカー問題に関連があるかもしれないと話した。南雲は所轄の東町警察署にこの殺人事件の特別捜査本部が設置されていて、そこに出張っていた。  南雲は翌日、その捜査本部の会議に晶子を連れて行くことにした。もちろん、晶子が透明人間になることが条件だった。翔の取り調べで晶子は一度、東町警察署には行ったことがあった。あの時と同じように、「独身女性連続殺人事件特別捜査本部」と大書された紙が入口に貼ってある大きな会議室で多数の捜査員が集まって会議をしていた。  南雲は捜査幹部の席に座り、透明人間に変身している晶子も空いていたその隣の席に座った。後ろのホワイトボードには捜査の進捗状況が記されていた。さらに、三人の被害者の顔写真とその関連情報も要点が記されてあった。晶子がそこで目に止めたのはいずれの事件も被害者の左耳が切り取られていることだった。 「それでは、捜査会議を始める。まず、被害者についての捜査報告から進めよう」  東町警察署署長がそう言って、捜査員たちの顔を睨めまわした。 「最初の被害者の田辺洋子二十四歳は、その後の司法解剖で三月十一日午前二時頃の死亡と推定されました。凶器は鋭利な刃物で胸と首筋に二箇所に刺し傷があり、それらが致命傷で即死と断定されています。非常に手慣れた仕業との検死コメントがあります。洋子の交友関係については勤務先の会社に親しい関係の男性佐藤春樹がおりますが、事件当日は同僚たちの歓送迎会の後、数軒飲み歩いており複数の目撃者がいることから彼のアリバイが確認されています」
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