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五月の連休が終わり、久しぶりに登校した感のある晶子が下駄箱を開けると、手紙が入っていた。そのとき、後ろから朋美が覗いた。
「何。ラブレター?」
「えっ。なにそれ?」
「その手紙よ。普通、女子高校生の下駄箱に手紙があるということは、そういうことよ」
「えーっつ。なにそれ?」
「いいから。早く開けてみなさいよ」
「でも、これ、開けても良いの?」
「そりゃあ。開けてみるのが礼儀よ」
「わかった」
晶子は手紙の封を切った。中から白い便箋が出てきた。それを開くと、細かい字で何やらびっしりと書いてあった。肩越しに朋美もそれを読んだ。
手紙の主は二年A組の澤本一樹で、隣の教室の生徒だった。晶子と階段や廊下ですれ違うたびときめく自分の気持ちに決着をつけるため、付き合って欲しいという主旨の手紙であった。朋美の言うラブレターで間違いなかった。ところが、晶子本人は一樹について何の印象もなく、ただ当惑するばかりだった。
「えーっ、知らないの。その男の子のこと?」
英語の授業中なのに朋美がすっとんきょうな声を出した。周りの視線に晶子は慌てたが、朋美は無頓着だった。
「まずは、その男の子がどんな奴か確認するのよ。ほら、早く行って!」
朋美に促されて晶子は挙手し、伊藤直美先生に体調がすぐれないので保健室に行く旨を告げて教室を出た。そして、直ちに透明人間に変身してA組に向かい、その教室の後ろの半開きになっていた引き戸をそっとすり抜けて中に入った。ちょうど数学の授業中だった。教壇のところへ足音を立てずに歩いて行くと、そこには座席表があった。晶子は窓側の後ろから三番目の席に座る涼しげな眼をしたイケメン男子が一樹だと知った。
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