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晶子は初めての経験なので朋美のお邸で今後の対応について相談した。
「それで、晶子の気持はどうなの。その澤本くんのことが好きなの?」
「えっ、それは…」
晶子は一樹の涼しげな眼を思い出して急に恥ずかしくなった。
「良い機会じゃない。あなたが普通の高校生活を過ごしたいのなら、普通の女子高生の恋愛をすればいいのよ」
「朋美はそんなに簡単に言えるけど、わたしの正体を知ったら彼はきっと逃げ出すわ」
「でも、わたしや翔は逃げ出さなかったわ。むしろ私たちにないあなたの能力をうらやましく思ってるわ。あなたのありのままが澤本くんに受け入れられるのかどうか、いつか機会を見て試すのね。ありのままを受け入れることが本当に好きだということじゃないかしら」
「そうね。わかったわ」
晶子と一樹の初デートの日がやってきた。ふたりは渋谷の喫茶店で落ち合った。晶子が約束時刻の五分前に着いて待っていると一樹がやってきた。
「あっ、待たせた?」
「いえ。今来たところ」
「手紙で告るって、不躾だったと思うけど、僕のことわかってた?」
「え?ええ…。わかってたわ。ありがとう」
晶子は一樹を確認するために透明人間に変身して彼の教室に行ったとはまだ言えなかった。
「そう、じゃあ、両思いだったってことだよね。よかった」
「うん」
晶子は一樹の涼しげな眼がますます好きになった。
だが、初デートの翌日、下校時にふたり一緒に帰宅途中まで歩いたのが最後で、それから一週間経っても一樹からの誘いはなかった。それにいらついたのは晶子ではなく朋美だった。
「どうしたの。今日も何も連絡ないの?澤本くんはあなたのメルアドとか知ってるんでしょう?」
「うん。きっとわたしのこと嫌いになったのよ」
晶子の気落ちしたような声に、ますます朋美はいらだった。
「あなたから、メールとか電話とかしたらどうかしら」
「うーん。それは…」
晶子はこんなことには奥手だった。
「だいたい、隣のクラスだからあまり様子が分からないんだけど、わたしがなんとかしてみるわ」
今度ばかりは朋美のお節介を晶子は頼もしく思った。
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