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「おかーさーん!
大変だよ!窓が割れちゃったよ!」
廊下の向こう側に向かって叫ぶが、母からの返事は聞こえない。
その間にも、窓からは叩きつけるような雨が、床の上をさらに水浸しにしてゆく。
そして暴風は、時折低い男の人の唸り声のように、時折女の人の甲高い悲鳴のように聞こえ、
家全体がまるで地震かのようにガタガタと揺れる。
震える指先で廊下の電気のスイッチを押してみるが、停電しているのかつかない。
「怖いよ.....お母さん.....。助けて....お父さん......」
思わずその場にしゃがみ込み、ただひたすら、母が戻ってくるのを待った。
「おーい!凪ちゃん!いるか!?」
その時、割れた窓の向こうから、風の音に混じって聞き覚えのある男の人の声がした。
「政おじちゃん?」
恐る恐る窓の方に近づく。
「ああ、凪ちゃん!そこにいるのか?」
お父さんの友達の政おじちゃんが、窓からこちらに懐中電灯の明かりを向けた。
「大変なんだ!凪ちゃんのお父さんが!」
オトウサンが.....?
暗闇の中、孤独と恐怖に耐え
政おじちゃんの顔を見て緊張の糸が切れたのか
それとも、それ以上の絶望からだったのか
その夜の私の記憶は、そこで途切れてしまっている一一一一一。
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