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あれもこれもと、お土産にお菓子を渡してくれるのを丁寧にお断りし、
私は徳ばあちゃんにお礼を言って店を出た。
途端にねっとりとした空気と、
潮の香りが体中にへばりつく。
徳ばあちゃんは本が好きで、
駄菓子屋をやりながらも、本屋も経営しているというやり手なおばあちゃん。
といっても、カウンターの横にほんの少しの本があるだけ。
ほとんどは、お取り寄せになってしまう。
今のご時世、お取り寄せならインターネットで出来るのだが、
せっかく久しぶりに帰省するのだからと、
母に頼んで、徳ばあちゃんにお願いしてもらっていたのだ。
早く本が読みたくて、自然と早足になる。
駅からの一本道は、左右に長く伸びた防波堤で行き止まりになり、
左に行くと漁港や魚の卸市場。
右に行くと山側へとゆるい坂道になっていて、住宅が並んでいる。
右に曲がって防波堤沿いを歩いていると、
防波堤にまたがり、海を眺めている男の人の姿が。
「政おじちゃん!」
私の声が聞こえたのか、日に焼けた恰幅の良い体をこちらに向けた。
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