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「ああ凪ちゃんか!いつ帰ってきたんだい?」
私は自分の背丈より高い防波堤の上を見上げる。
「昨日だよー。大学の夏休みが二ヶ月もあるから、その間はずっとこっちにいるよ」
「そりゃいい。大学に行って以来、バイトばっかりで帰って来ないって、佳美さんが嘆いてたからな」
「お母さんたら政おじちゃんにまでそんな事言ってたの?」
もぉ~と言う私にカカカと笑う。
「ところで一人かい?佳美さんは?」
「それがね、急に民宿組合に参加させられて、今駅まで見送りに行ってきた帰りなんだ」
「そうだったのか。で、佳美さんはいつ帰るんだ?」
「えっと、三日後の月曜日」
え?と怪訝な表情になる政おじちゃん。
「じゃあそれまで一人かい?」
「うん。でもその間民宿は臨時休業だし、一人でも問題ないよ」
私はつとめて明るい声を出した。
政おじちゃんはあえて何も言わず、しばらく海を眺めていたが、
「週末台風がくるらしい」
そうポツリとつぶやいた。
「そうらしいね.....。
週末は好きな本でも読んでのんびり過ごすよ」
まるで自分に言い聞かせるように、笑顔で政おじちゃんを見つめる。
政おじちゃんは一瞬だけ悲しそうな顔をしたが、すぐにいつもの人懐っこい笑顔になって、
「じゃあもし何かあったらすぐ連絡するんだぞ。おじさんはもう少し海の様子を見ていくよ。
台風が近づいてるから、波が高いんだ」
そう言って、目を細めて遠く地平線を眺めた。
私はそんな政おじちゃんの優しさに感謝しながらその場を離れた。
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