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到着したのは、ひと気の無くなった頃。
僕らは浜辺に座り込んだ。
美代が問う。
「最近、翔太君に会う?」
それは、初めて聞く名のように、僕には思えた。
――が、僕は翔太君を知っている。
中学に上がる頃には、彼は僕らの前に現われる事が無くなっていたのである。
「美代は?」
「会えないよ……。でも、毎晩きてくれた。俺が治してあげるから。って……」
優しくこぼれる涙に、抱き締める事しかしてあげられなかった。
その時――。
僕は見た――。
満面の笑顔の中に、淋しそうな目をした、あの日の姿の彼がいる。
それは美代にも見えていた。
美代が声を掛けようとした時、彼は消えて居なくなった。
僕らには彼の哀目だけが焼き付いた。
だから――。
この日。
この浜辺で決めたのだ。
男の子を授かるまで、子供が欲しいと。
それが、僕らの願いと成った。
付けるべき名は、もう決まっている。
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