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振り下ろされた硬化した黒い刃を団長は赤い刀身の大剣で防ぎ、一体と対峙する。既に呼吸は荒く、視線は目の前の化け物を見ているようで見ていない。白い穴のような瞳が彼女を見てにんまりと笑った。
伸ばされた触手――いや、鎌状の刃にいとも容易く大剣は弾かれ、団長の右肩を切り裂く。
◆
「くっ……」
吹き飛ばされた大剣を視界に入れる前に目の前の化け物がこちらにとどめをさそうと振りかぶるのが見えた。
『死ねばよかったのに』
響いた声は幾重にも重なり、波紋のように広がる。遠い昔誰かに言われた言葉。誰に言われたかは思い出せないけれど。
「団長っ!」
その声とともに風を纏った槍が化け物の右の瞳に突き刺さる。苦痛に表情を歪ませ暴れるソレに、吉川は二本目の槍を薙いだ。風をまとった刃が化け物の胴を引き裂き、霧散していく。
「あ……」
「何してんだよ、死んじまうぞ!」
そうだ。死んでしまう。まだ死ぬわけにはいかない。皆の分まで生きなくてはいけないのに。なんで今、体が動かなかったんだろう。
「ほら、大剣。まずはこいつらを倒さないといけないんだ。俺たちは生き残らないといけないんだ」
そうだ、吉川の言う通りだ。彼は槍を構え化け物――この世界では【悪鬼】と呼ばれているそれに槍を振るう。二槍の槍は的確に悪鬼の頭を潰して行く。
大剣の柄を握ったが、どう動けばいいのかも体が忘れてしまったようだった。静かに視界が暗転する。ああ、私は――。
【誰か助けて】
何故かそんな言葉が聞こえた。誰の言葉かは、私にはわからなかった。
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