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◆
「……」
気を失った団長の体を浅間が左手で支え、目の前の悪鬼を見据える。数は後二体。一体は吉川が引きつけている。今回は全て吉川の手柄だ。浅間は最初の一体しか倒していない。団長は剣を振るうことなく気絶した。
「……なんだよ、もう限界か? まあ、トラウマになってもおかしくねえか、けけけ」
団長に語りかけるようにそう呟いた浅間に、悪鬼は好機としたのか両腕の触手を一本にまとめ大鎌を作り出し、浅間に向かい振り下ろした。
その大鎌は彼の右手のひらで止まった。引いても押しても動かず、悪鬼は戸惑うように飛びのいた。その大鎌の刃は彼に掴まれたところからボロボロと砕け、ついには刃は音を立てずに折れてしまう。浅間はすぐに距離を詰め、その顔を右手で押さえつけた。悪鬼は断末魔をあげて砕け散る。何が起こったのかわからないまま、ただ自分が崩壊していく音を聞きながら。
「浅間さん! 無事か!?」
浅間は黙ったまま団長を地面に寝かせ、右手に手袋をはめてからひらひらと手を振った。
「……団長」
「さっさと車に乗れ、戻るぞ。こっちは疲れてんだ」
そう言って団長を左腕で背負い直しワゴン車へ向かう浅間に、吉川は静かに問いかける。
「団長をやめさせるつもりか?」
「有用性があるならやめさせんよ、上が何としてもな。俺はそれに従ってるだけだ。――開発部長が戦闘班の人事に首突っ込むことがおかしいんだ。今は戦闘班のまとめ役がちょっと疲れてるみてえだから代わりにしてるだけさ」
吉川は歯噛みして、「俺達は悪鬼を狩る道具じゃない」と浅間を見据える。
「上に伝えとく。ああ、俺にとってはお前らは有用な研究対象だ。そう簡単にやめさせたりはしない」
浅間はそう言って団長を後部座席に寝かせ、シートベルトを締める。そして自分も運転席へと乗り込んだ。吉川は慌てて後部座席のドアを開け乗り込む。帰り道はどちらも無言だった。
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