プロローグ

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「……灰が降ってきた」  まるで雪のようなそれを見つめながら、俺は機械のように詠唱して少女に結界を張る。そうだ、まだ少女なのだ、彼女は。団長――本名、早坂 葉月(はやさか はづき)。団長というのはあだ名で、小さいころからそう呼ばれていたらしい。俺はもともと彼女の名前を覚えるつもりはなかったので団長と呼んでいたらそれに慣れてしまった。 「……相模隊長?」  またあの娘と重なる。だから似てない。隊長と呼ぶな、とも言えない。俺がまだ鬼狩の隊長をやってるのは事実なのだから。  鬼狩日本北方支部。とはいっても、この間本部が潰されて本部になったけど。本当に役に立たない奴らだ。俺の下で働いておけばよかったのに。 「死人相手に性格悪いな」  思わずそんな言葉が口に出た。本当に性格が悪い。昔からこんな感じだったかもしれないけど。  死の灰は人を殺し、植物を枯れさせる。まるで毒だ。これが悪鬼を殺そうとした政府の決断なのだから仕方ないが。俺は反対した。悪鬼はそんなことでは死なないと。話を聞かない馬鹿共のせいでそれは実行され、人間は地上に住めなくなった。20年も前の話だ。  今俺は司令から現場の隊長に降格し、支部長の下で働いている。最早この戦いの意味なんてどうでもいい。
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