召喚計画

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「質問に答えて。誰でもいいわ」  私は何も言うことができず、浅間さんは面倒そうに頭を掻く。吉川は息を小さく吸って「俺は吉川 燕。ここは鬼狩日本北方支部の第三研究室だ」と答えたが、女性は表情を崩さず「世界名は?」と尋ねる。  世界名? 何のことを言っているのかわからず、浅間さんを見つめようとした。そう視線が動く前に「幻想世界の残骸が降り注いだ滅びゆく世界、だ。この世界には名はない。当然、お前がいた世界でもない」と浅間さんの声がする。私にはなんのことだかさっぱりだ。彼女の視線は吉川から浅間さんへと移る。 「申し遅れた。私は浅間。この召喚計画の責任者だ」  いつもと異なる若干芝居がかった口調と下の名前を言わない徹底ぶりは相変わらずだ。 「召喚計画……やっぱり私は何かの儀式に巻き込まれたってことね。なら話は簡単よ。今すぐ元の世界へ返しなさい」  女性は浅間さんに銃口を向ける。彼は小さく「それは無理だ」と答えた。 「召喚ができて送還の術が使えないの? 変な話ね」 「送還はできるさ。君に協力して欲しいんだ」 「滅びゆく世界って言ってたわね、そのために私を呼び出したの? 自分の世界くらい自分達で守れないの?」  女性はだんだんと苛立ちを見せ、静かに淡々と言葉を紡ぐ。浅間さんもそれと全く同じ態度で返していたが、最後の問いかけにだけはくくくっ、といつもの笑いを見せた。  彼女はいきなり変わった彼の様子に戸惑い、銃を構え直す。むしろ日頃の浅間さんを知っていると今までよくもったと思うほどだ。 「けけけ、こっちにも事情があんだよ」  事情。それは現場で動いている私達と同じ事情だろうか。それとも浅間さんが知る『事情』は私達のものとは違うのだろうか。
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