7人が本棚に入れています
本棚に追加
「それとも何か? ここで全員を撃ち殺して自分で帰る方法を見つけるかい?」
女性は小さく舌打ちして「残念ながら、そんな趣味はないわ」と銃を下ろした。私達も緊張の糸がほぐれたように息を吐く。
「帰ることが出来る保証はあるの?」
女性は朱色の髪を揺らし浅間さんに問いかけた。彼は静かに頷き右手の手袋にかけていた左手を離す。
「私を召喚した理由はこの世界を救うため?」
その言葉に浅間さんは「まあ、そんなところだな。いいだろ? 危機に現れる正義の味方みたいで」と彼女に一歩近づいた。
「正義の味方? まるで子供騙しね」
子供騙し。そうかもしれない。でも、そんな子供騙しでも私は鬼狩が正義の味方だと信じている。あんなことがあった今もそう信じている。
「お前と契約するのはそこの吉川だ。必要なものは真名――つまり名前だな。簡易な契約だが少しでもこの世界の人間と繋がりを持っていた方がいいらしい」
らしい、ということは浅間さんは誰かから契約の仕方を聞いたのだろうか。女性は吉川へと向き直り、「……できるだけ早く帰りたいの。協力してくれる?」と問いかけた。
「ああ、もちろんだ!」
女性に手を差し出す吉川。その表情は見えなくてもわかる。笑顔だ。
「少しでも変な動きしたらどうなるかわかってるわね? 特にそこの茶色い――笑顔が壊滅的に気持ち悪い人」
彼女はそう浅間さんに視線を移してから差し出されたその手を取り、「カルティエ・ナーフェスよ」と名乗った。
「失礼な奴だな」とぼやいたのは誰か、言わなくてもわかるだろうから言わないでおく。
最初のコメントを投稿しよう!