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同時刻。白いワゴン車が灰降る世界を行く。古い型なのかうるさいエンジン音。呼吸器をつけた黒い髪に金色の鋭い瞳をした運転手は必死に目を凝らす。
「まずいですね……降ってきちゃいました。……垣内さん? 寝てるんですか? 呼吸器はつけてますよね?」
ワゴン車の後ろ側に乗った黒い杖を傍らに置く短めの黒い髪に灰褐色の瞳を持つ四十歳前後の男は静かに「ああ、つけている。稔君、すまないな。君には無理ばかり言ってしまう」と口を開いた。
「いや、無理は慣れているのでいいんです。垣内さん、EU支部で……その、何があったんですか? なんでそんな……そんな、」
稔と呼ばれた青年が後ろを気にしながら車を走らせていると不意に垣内と呼ばれた男が「止まれ!」と叫ぶ。あまりにも大きな声に秋山は急ブレーキを踏んだ。
「これは――! 嘘だ、さっきまでなんの反応も!」
なかった、と叫ぶ稔に垣内はシートベルトを外し後部座席の扉を開け、それと対峙する。三百六十度黒い影の化け物に囲まれた自分たちを自嘲するような笑みが漏れた。その左足は太腿から切断されており、杖を唯一の支えにして立っている。
「随分と手荒い歓迎だ。稔君、君は北方支部に連絡を。下級悪鬼総数17。この程度切り伏せられず何が鬼狩か」
垣内は右手に持った長刀の鍔を鳴らし左手でそれを引き抜く。蒼い刀身の長刀――大昔、鬼が片手で振るっていたという伝説が残るその刀を彼はその伝承と同じく右手で構えた。
「人間を舐めるなよ、化け物共――!」
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