召喚計画

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「善人ねえ。漢字は善人(ぜんにん)か?」  浅間さんの笑いを含んだ声を聞いた善人くんは静かに彼に視線を向け、「だったら?」と問いかける。 「そうキレんなよ、名簿登録上の問題だ」  浅間さんはそう言って何かをメモするようにメモ帳にペンを走らせる。善人くんは「だったら都賀井の方も聞くんじゃないの?」と若干苛立ったように言葉を吐いた。 「あー、忘れてたわ。一応教えてくれるか」  絶対嘘だと思いながらも、もうすぐ来る自分の番に心臓が高鳴る。失敗したらどうしよう。私だけが失敗したらどうしよう。また大勢の人を傷つけてしまったら、ここにいる皆を傷つけてしまったら――私は彼らの仲間ではいられなくなってしまう。 「早坂? 顔色悪いぞ、ちょっと休むか?」  気づけば秋山さんが心配そうに私の顔を覗き込んでいる。 「ちょっと考え事してて。大丈夫。秋山さんこそ――顔ひどいって言うかヤバイけど」  秋山さんは頬を押さえながら「まあ慣れてるから」と笑う。殴られることに慣れているのはちょっと異常だと思うけれど。浅間さんはそんなに秋山さんに日常的に暴力を振るっているのか。 「じゃ、次の召喚だ。お前には――そうだな。この刀でやってもらうか」  そう言って彼は垣内さんから一振りの刀を受け取った。鞘から抜くと、蒼い刀身が光を受けて煌めく。私はそれを浅間さんから受け取ると、台座の上に上がり魔法陣の上にそれを置いた。心臓が痛いほど高鳴る。それを隠しながら魔法陣に手を翳した。沸き上がってくる嫌悪感は押さえきれず、それを押し殺そうと魔力を放出する。  その結果として、他の三人とは明らかに違う反応があった。光は収束することなく赤い雷撃となり魔法陣とその中心にいる私を外部から遮断するように取り囲む。  すぐ後ろで待機していた浅間さんの舌打ちがやけに遠くで聞こえた。 「団長!」  吉川と空音さん、上野くんの叫びにも似た自分の名前を呼ぶ声が聞こえる。それでも魔力の放出はやめなかった。否、自分では止めることができなくなっていた。
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