プロローグ

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 団長は吉川に対して大丈夫だと笑った。なんだ、さっきまで泣いていたのに。もう笑えるのか、薄情だな。薄情? 自分を棚にあげて何を言っているんだ。俺が一番の薄情者だ。人間ではないのだから、情など持っているはずがない。  悪鬼が悪鬼退治なんてとんだ笑い話だ。いっそ、完全に悪鬼となってこいつらを皆殺しにしてしまおうか。いっそ、こんな世界壊してしまおうか。  そう考えていた時、鬼狩隊員に支給されている連絡・情報検索用タブレットが規則正しい音を奏でる。誰のものかはわからなかったが、浅間が内ポケットから取り出したことで浅間のものだということがわかった。 「よう秋山。……あ? お前は何してんだ! 早くソイツを止めろ! 病み上がりだぞ! 切断した時の傷も完治していない! 御託はいいから止めろってんだろ! 相変わらず役に立たねえ奴だなてめえは! おい! 団長! 吉川! 車出すから来い! 相模! 大蔵 空音の武器テスト任せたぞ!」  文字通り血相を変えて叫んだ浅間に、吉川は焦って出撃ゲートへ走り出したが、団長は動かない。浅間はそれを見て小さく息を吐き、「どうした? やめんのか、鬼狩」と尋ねる。  団長は絞り出すような声で「私は……死神かもしれない」と呟いた。彼女は以前も先輩を失っていたのだったか。浅間はそれを聞いてくくく、と笑いながらその左手を右手で取る。白い手袋をはめた右手と、薬指に指輪をはめた左手が重なった。 「テメエが死神名乗るのはまだ早えんだよ、周りの奴全員殺してから名乗りやがれ死神見習い。手が足りねえんだよ行くぞ!」  浅間に手を引かれ走り出した団長。一人残された俺は言われた通りに訓練場へと移動を開始した。
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