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鬼狩日本北方支部という文字がドアに入った黒のワゴン車が灰降る世界を本来ならスピード違反スレスレの速さで走る。木や草は枯れ、川は干上がり、ひび割れている道を揺れながら、それでもある一点を目指して。
「団長、吉川、呼吸器はつけたな? 保険として活動範囲に結界を張る! 存分に暴れてこい!」
白いワゴン車が浅間の目に止まる。そしてそれを囲む影の化け物たちの姿も視認できた。
浅間はワゴン車を止め運転席のドアを開くと、右手の手袋を剥ぎ取り自分から一番近い距離にいる影の化け物に右手のひらを押し付けた。
その瞬間、その姿はガラスのようにひび割れ砕け散る。化け物達の視線が浅間に向いたところで、左手に持った白いチョークで地面に魔法陣を描き、左手を地面に打ち付ける。瞬く間に青いベールが二台のワゴンと化け物達がいる範囲を包み込んだ。
「よう垣内(かきうち)、テメェ帰ってきて早々問題起こす気か?」
浅間は杖をついて荒い息のまま刀を構える灰褐色の瞳を持つ男に向かい気味の悪い笑顔を見せる。
「フン、君こそまた私の楽しみの邪魔をするのか? これだから戦闘狂は嫌いだ……」
言い終わる前にぐらりと倒れた垣内を、稔――先ほど浅間に罵倒されていた運転手が慌てて支える。
「浅間さ――」
「秋山ァ! 何ぼーっとしてんだ! 早く奴を連れて北方支部へ行け! 医療班に受け入れ準備はさせてある!」
「はっ、はいっ!!!」
慌てて白いワゴン車に向かい駆け出す稔を庇うように、吉川と団長がそれぞれ槍と大剣を構えて前に出る。
「総数は6か。あの野郎半数以上減らしやがって。どっちが戦闘狂だよ」
浅間はそう言うと脱いだ右手の手袋を左手で白衣のポケットへと滑り込ませた。右手の袖はまるで硬化した後砕かれたかのように不自然に破れており、彼は常に右手の位置に気を配っているようだ。
「吉川――」
「大丈夫だ、六体くらい俺たち二人と浅間さんならなんとかなるって! ……まあ俺は浅霧さんよりは頼りねえかもしれねえけどさ」
そんなことない、とつぶやこうとした言葉は声にならず、影の化け物の雄叫びだけが灰降る世界に木霊した。
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