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「ま、待ってくださいよ…っ!」
動くな、と言われたことを忘れたわけではないけれど、恐怖と好奇心が混ざり合った気持ちを持て余して玄関へと走る。
長い廊下の先に現れた玄関にホッとして、転げそうになりながらもスニーカーに足を突っ込んだ。
「タマさ…。」
「ここだよ。」
門に近づけば近づくほど靄は予想以上に濃くなっていて、自分がどこに立っているのかも分からなくなるほどだった。しかもタマさんのお屋敷は庭だってとんでもなく広い。
危うく迷子になりかけた僕の手を掴んだのはやはりタマさんだった。それに気づけば自然と肩の力が抜ける。
「やれやれ、動かないように言っておいたはずなんだけどねぇ…。」
「すいません…。」
呆れ顔で僕を見るタマさんに、小さく頭を下げた。好奇心に負けてしまったのは事実だ。
「あの…、それでこれは…?」
キョロキョロと巡らせていた僕の言葉が途切れ、視線が固まったのはタマさんのすぐ目の前。
不思議そうな顔をして僕を見上げるその子は、どう見てもまだ幼稚園に通っている年齢だ。
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