第一話

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「わかんない。」 返ってきたのはそんな言葉。痛いっていうのは自分の感覚なのにまるで他人事のような言い方をするその違和感に、僕はますますわからなくなる。 いたいというのは他のことなんだろうか。もしかして痛いって言葉の意味そのものがわかってない…?いや、だけど言葉はちゃんと喋れているし…。 「それじゃあ、どうしていたいいたいなんだい?」 そんな風にぐるぐると考えていた僕の代わりに今度はタマさんが口を開いた。僕と同じようにしゃがみこんでいる。 濃い霧の中でも口紅の色は赤い。 「だってね、ママが言ってたの。『みぃちゃん痛いよね。』って。」 「本当にそう言ったのかい?」 「嘘じゃないよ!…なんだか……、泣いてるみたいだったけど…。」 「なるほど。」 それだけ言うと、タマさんは一人納得したみたいだった。何がなんだかわからないままで不満ではあるけれど、それを顔に出すほど僕は子供ではないつもりだ。 母親が言っていた痛いという言葉と、泣いているという状態。この二つだけでタマさんは何がわかったのだろう?
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