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「ほんの少しだけれどね。」
苦笑したままゆっくりと立ち上がったタマさんは、この広いお屋敷の主だ。
そっちの方向に全く知識も興味もない僕でも分かるような上品さの溢れる着物に身を包み、言葉もどこか古風なものを使う。
日本人形を思い出させるその顔立ちのせいか、それとも見慣れないものだったからか。
着物を着こなすタマさんを初めて見たときは息を止めてしまうほどに見入ってしまったのを覚えている。
あの日、見慣れないわき道に好奇心をくすぐられ、進んだ先にあったのがこの屋敷だ。
立派な庭と、一つ一つが広い部屋。
そこに一人で住むタマさんは、俺を歓迎してくれた。
あれからもうどれぐらいの時間が経ったのだろう。訪れるたびに笑顔を咲かせるタマさんに甘えて、ほぼ毎日と言っていいほどここを訪れている。
「ほら、部屋にお入り。」
ぼんやりとした寝起きの頭が耳を通して捉えたのは、柔らかなタマさんの声とサアサアと滑るようにして落ちてくる雨の音。
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