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「…。」
「タマさん…?」
やはりしばらく置いて冷まそうと茶杯から手を離したとき、タマさんが静かに立ち上がる。
それを不思議に思って名前を呼ぶも答える気はないらしい。
ただ目の前に広がる広い庭、その一角。どっしりと腰を下ろした木製の門のあたりにタマさんの目は向いていた。
「…あれ……?」
ゴシゴシと右手で目をこするも見間違いではないらしい。
そこには靄のようなものがかかっている。
さっきまで雨が降っていたといっても晴れていたのは確か。それなのになんで…。
「ここを動くんじゃないよ。」
「あ、ちょ!タマさん!」
踏み石の上にあった下駄に素早く足を通したタマさんは、そのまま靄の中に消えていく。
下駄独特のカランコロンという音が遠ざかると急激に不安が襲ってきた。晴れているおかげで明るくはあるものの、やはりこんな状況で一人にされれば恐ろしく感じてしまう。
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