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「…ここは、何処かしら?」
いつも通り、私は自分の部屋のベッドで眼を覚ます予定だった。
それなのに、目の前に広がるのは一面の森。何なのよ、いったい…
「どういう事かしら?部屋着の上、裸足って事は…私って夢遊病だったのかしら?けれど家から近くの山まで最短でも5kmはあるわよ…?」
まったくもって、現在の状況に至った経緯が分からないわ。何かのドッキリかしら?
「困ったわね…携帯も無いから連絡が出来ないわ」
まぁいいわ。ココは山の斜面みたいだから、コレを下れば森からは出られるハズよ。
「裸足だから少し大変かもしれないけど…このまま遭難するよりマシね」
そう思って、歩きはじめようとした時。
背後に、何かいる気配を感じた。
「何よ…って、コレは少しマズいかもしれないわね」
振り返ると、私から5mだけ離れてソレは居た。
軽く3mを越す体高の巨体が、黒い毛に覆われている、
その両腕には鋭い爪があり、顎からは人間とは比べ物にならない牙も覗く。
「熊…かしら?けれど、ヒグマでもこんなに大きくはないハズ…謎ね」
普通の人間なら、まず生き残る事が不可能な状況。
それでも。
「私を食べたいのかしら?生憎ね。私は普通の人間とは少し違うわよ」
この世の中には、決して知られてはないが妖や魔法のような異能の力が存在する事を、私は知っている。
「今なら、誰も見てないわね…使うわよ、私の力を」
そして―――私の力は、そんな異能の1つ。
熊のような何かが、私に向かって突進してくる。
私は、逃げもしないし、相手に突っ込む事もしない。
ただ、右腕を前に出すだけ。
それだけで、巨熊の動きは止まる。というか、私が止めたのだけれど。
「足掻いても無駄よ。風速80mの風の中で動けるワケがないわ」
熊は腕を振り回すが、そんな事で押し返せる風ではない。
「私が使える力の一部、それが風なのよ…って、熊にそんな事言っても理解できるワケないわね」
ここから、どうするか。
傷つけたりするのは私の好むやり方じゃない。ましてや、命を奪う事なんて。
面倒だから、こういう場合は決まって、
「吹き飛ばすわよ」
風速150mの風で、熊の巨体は宙へと浮き、何処かに飛んでいった。
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