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『沙耶香……さん?』
ワンコールで出たその声が嬉しくて寝そべっていた身体を起こして立ち上がった。
でも、スマホから聞こえた緋英君の声は、いつもの切れのいい声じゃなかった。
「緋英君……どうした?声が変だけど」
『どうって……ごめん。まだ、寝てたから。それより、沙耶香さんのほうこそどうかした? 涙声だけど』
そう、言われて時計を見ると、まだ、五時半過ぎだった。
寝ていてもワンコールで電話に出るって凄い。
まだ、寝ていた緋英君を起こしてしまったらしい。
涙声の返答は恥ずかしくて言えない。緋英君を思い出して泣いていたなんて言えない。
「ごめんなさい。わたし、時間も確認しないで、いきなり電話なんかしちゃって。いや……どうでもいい話だから。また、後で電話する」
『俺にとってはどうでもいい話でも、沙耶香さんにとっては大事な話しだから慌てて電話なんか掛けてきたんでしょ? 用件はなに? 今日の名古屋行きのこと? 俺を電話で起こしたことは気にしないで』
直ぐにいつもの美声に切り替わるところも緋英君の凄いところだ。
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