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「ごめんね。ほんとにわたし、慌てると回りが見えなくなる子だから。あの……いきなりの質問で悪いんだけど、緋英君の好きなケーキってなにかな?」
『好きなケーキ?』
「うん」
『甘いケーキは……苦手かな』
「……」
用意していたレシピが全部ハイ、消えた。
ハリーポッ○ーの魔法じゃないけど、床に散らばったレポートがボッボッと一枚一枚、炎と化して灰になってボロボロに散ったかんじ。
同時にパティシエ見習いとしてのわたしは、緋英君にとっては何も価値がない気がした。
昨夜、テーブルの上に伏したまま寝たせいか、ドッと疲れが出て来た。
「そう……ケーキ……嫌いなんだね。分かった。じゃあ……」
背中に重い石が圧し掛かったような気分のまま通話を切ろうとしたら
『あ……甘さ控えめのザッハートルテなら好きかな』
「……」
『今日のバースデーケーキを用意してくれるつもりで、それを聞きたかったんでしょ? ごめんね。気ままばかり言って。ビター味のケーキなら食べられるから』
「ううん。それを聞けただけで十分だから。分かった。ザッハートルテね。美味く出来るか不安だけど、パティシエ見習いとして意地と根性で挑戦してみる」
『それってつまり、沙耶香さんが俺の為にケーキを作ってくれるってこと? ありがとうね。その為にこんなに朝早くから考えてくれていたんだね。嬉しいな。俺、なんか……感激だな』
感激だな……
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