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窓から見ると、優気子は導火線に火をつけようとしていた。
離れていなければいけないから、導火線が長い。こうなったら頑固な優気子のことだ。一緒に逃げようと言っても、梃子でも動かないだろう。
「あ、巧、待って」
渡り廊下に行こうとした途端、優気子に呼び止められた。
「何の用だ?」
「この導火線、教室棟に行って、このライターで火つけて」
「わかった」
とか口で言いながら心は「?」マークだらけだ。なんで俺が、導火線に火をつけるんだ?
「巧、火つけて~!」
大声が科学室から聞こえた。
まさか、ニトログリセリンがあるところまで行くのか?
「巧―! 早く!」
まあ、優気子が大丈夫と確信したんだから、きっと大丈夫なんだろう。
俺は導火線を科学室から十メートル引っ張って、教室棟の中に入る。
俺は導火線に点火し、ジジジ……と音がしたあと、導火線をドアの外に出した。導火線を外に出さないと、ドアが閉まらない。
科学室は目立たないところにあるから、閑散としている。教室棟からは吹奏楽部の部員が楽器を鳴らす音がした。
優気子が科学室から出てこない。やはり自殺だったのか?
俺は導火線を見た。まだ容赦なく照りつける太陽の下、俺が教室棟の中にいるから音は聞こえないが、火花を散らしながら、科学室まで確実に火は伝って行く。
俺は爆風で窓ガラスを割れる事態を早めに予想して
「教室からカーテンもぎ取って皆その中に入るんだ! 早く!」
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