マタドールの甘い誘惑

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そう思ってたら、智也さんがフフッって小さく笑ったあと あの碧く深い瞳でじーっと私を見つめてる。 あまりに深く見つめられた気がして私は戸惑った。 「…な…何?」 ドキドキしながら聞いた私に智也さんは真顔で答える。 「いや…梓さんって表情がコロコロ変わって面白いなと思って」 「はぁっ?」 何?何? 私ってそんな面白い顔してんの?! いや、これでも顔は人並みだと思って生きて来たんだけど! 一人でまた突っ込んでたら、私の疑問なんて完全にスルーした智也さんが続けた。 「隼人はね… 素直じゃなくて捻くれてて… だけど本気で惚れた女には一途で… 悪いヤツじゃないよ」 優しく微笑みながら言う智也さんは、やっぱり藤森隼人の友達なんだな…。 さりげなく藤森隼人をかばってる…。 なんだかその優しい微笑みに、やっぱり私は見惚れてしまった。 ぽーっと智也さんを見つめてる私から視線を逸らしてグラスを磨き始めた智也さんがポツリと言った。 「だけど、梓さんは隼人は辞めておいた方がいいと思うな」 なんだかその言葉にトゲを感じた私は、もう一度キッパリ否定した。 「藤森隼人になんか惚れてませんから。 惚れてるのはね、私じゃなくて美穂…かも…?」 それを聞いた智也さんはグラスから再び私に視線を移動する。 「それなら良かった」 ニコリと微笑みながら言った智也さんの言葉に私の心がグラっと揺れる。 それって…どういう意味? そう思いながら智也さんを見つめたら、私の疑問に気づいたかのようにこう答えた。 「ん?隼人はさ、倉田さんが好きみたいだから」 …あ… そういう意味ね…。 私が藤森隼人には惚れてないって部分の”良かった”じゃないんだ…。 …って何で私ガッカリしてんの? しっかりしろ、梓! マタドールに添えられたライムをギュッとしぼりながら自分の中に感じ始めてる思いを否定した。 私はもう… 恋なんかしないんだから…。
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