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アジサイが咲き始めた校庭はすでに初夏の風情があった。そんな窓の外の景色を眺めながら、晶子はいまから始まるホームルームが最も退屈な時間だと思っていた。だが、この日は違っていた。担任の伊藤直美がクラス全員の部活状況を調べてそれをグループ分けして発表したからだ。
さらに、直美は今度新しい校則ができて、生徒は皆、何らかの部活をすることが義務付けられたと告げた。部活に所属していないグループは数人だったが、その中には朋美と晶子が入っていた。
「それじゃ、皆さん、この一学期が終わるまでに何らかの部活に所属するようにしてくださいね。先生も相談に乗るから」
そう言って、直美は朋美と晶子の方をちらりと見た。
青空の下、昼休みに屋上でお弁当を食べながら朋美と晶子が部活のことを相談した。そこに、澤本一樹がやってきた。
「何だ、こんなところでお弁当を食べているのか」
「あら、澤本くん、わたしはお邪魔かしら」
朋美がお弁当を片づけながら言った。
「ハハハ、全然大丈夫さ。ねえ、晶子さん」
「一樹さんは何かわたしたちに用事があるの?」
晶子もお弁当を片づけながら尋ねた。
「うん、今朝のホームルームの時間に君たちのクラスでも部活義務化の話があったでしょう。それで、晶子さんとかはどうするのかなと思って…」
「そう言えば、一樹さんも化学同好会が無くなったから、何かほかの部活を始めるんでしょ?」
「僕は今度、剣道部に入ろうと思うんだ」
「剣道?男らしいわね」
朋美が食いついてきた。
「剣道部はこの部活義務化を機会に女子も入部できるようになるんだ。だから、晶子さんもどうかなと思ってさ」
「それじゃやっぱり、晶子が目当てだったんじゃない。わたしは退散しようっと」
そう言って立ち上がる朋美を一樹は制した。
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