第6話 剣道部

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 立花顧問のうむを言わせぬ口調に負けて渋々、晶子は先日つけ方を教わった面や小手、胴などの防具に身を固めた。そして、道場の真ん中で晶子よりもはるかに身長差で勝る正美と相対した。 「その白線のところに立ってお互いに一礼の後、竹刀を構えて!」  立花顧問の鋭い声が場内に響いた。ほかの部員は練習をやめてふたりの立ち会いに注目した。まるで、勝負を賭けた試合のようだった。晶子は基本練習で教わったように竹刀の先端を相手の喉首の位置にピタリとつける正眼の構えを取った。正美はそのときスルスルと竹刀を振りかぶって上段の構えを取った。場内はシーンと静まり返った。一樹と朋美は、ハラハラしながら晶子を見守っていた。 「やあっ!」  正美が烈白の気合いとともに竹刀を振り下ろし、晶子の面を打って出た。鋭い一撃だったが、晶子には正美の動きがスローモーションのように見えた。晶子は一瞬にして身を翻し正美の背後に廻っていた。そして、持っていた竹刀で正美の後頭部をポコンと軽く叩いた。 「それまで、朝倉のメンあり!」  立花顧問が右手を晶子の方にあげた。部員たちがざわめいた。だが、一番驚いたのは正美本人だった。彼は剣道歴が長く二段の段位を持っていた。彼の渾身の一撃をかわしたものはこれまでに数えるほどしかいなかった。しかも正美には、竹刀を振り下した瞬間に晶子が目の前からスッと消えたように見えていた。晶子の俊敏な動きに正美の動体視力が追い付けなかったためだ。  この勝敗で、晶子は女子の中で唯一人、男子部員に交じって練習することが決まった。
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