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「母上…」
それが彼の口から一番始めに出た言葉であった。
先のやり取りから分かるように、女性士官の名がアン=レイで男性士官の名がハンス=レイなのは言うまでもない。
やがてアンはほんの一瞬だけ養母の軟らかな笑みを浮かべると、すぐに扶桑国海軍士官の顔に戻り話を続けた。
「扶桑国海軍少佐ハンス=レイ。
貴官に命令が下りました。
本日正午を以て、扶桑国海軍大佐アン=レイの指揮下に入るべし。
復唱」
穏やかながらも有無を許さぬ口調を以てアン。
如何に養母とは言えアンが大佐でハンスが少佐である以上、ハンスの答えは一つしか許されなかった。
やがてアンがハンスの傍らに立つ水兵に目配せすると、水兵は素早くアンに敬礼しハンスに向き直る。
そして油紙で幾重にも包んだ四角い包みを、敬礼しつつハンスに手渡すのであった。
尚、室内故に挙手の礼ではなく30度のお辞儀なのは言うまでもない。
「こちらをお返し致しますレイ少佐」
「了解した。
御苦労一水(一等水兵)」
ハンスは短くそう答えると、油紙を丁寧に開き包みの中身を両肩に装着する。
中身とは扶桑国海軍の階級章なのは言うまでもないのだが、どういう訳か少佐ではなく兵曹長の階級章であった。
やがてアンが口を開く。
「貴官が急進派に与していた以上、無罪放免では永中連国民に申し訳が立ちません。
質問は?」
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